制作・発行 | 大石天狗堂 |
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関連情報 | 解説:吉海直人 絵:藤本正男 |
発行年 | 2002年 |
地域詳細 | 京都府 |
枚数 | 96枚 |
裏面解説 | なし |
附属資料 | 解説書 |
種類 | 都道府県かるた |
順 | いろは順 |
備考 |
「いろはかるた」とは、「いろはたとえかるた」の略称です。また「いろは」とは、平安時代に成立した「伊呂波歌」のことです。それは、
色は匂へど 散りぬるを 我が世誰そ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて 浅き夢見じ 酔ひもせず
という歌ですが、47の音が重複なく一度ずつ使用されているという特徴があります。これが五十音以前の規範(日本のアルファベット)となり、辞書のいろは順や書道手本(仮名手本)として広く用いられました。そのため、「伊呂波歌」47字を頭に据えて47首の歌を読む「いろは短歌」が登場します。一休和尚の「道家いろは歌」などが有名です。
これとは別に、明和頃(1764~72)にはことわざを集めた「たとえかるた」が作られました。ただし、これは一字一枚ではありませんし、いろは順になっているわけでもありません。先の「いろは短歌」とこの「たとえかるた」が合体して、「いろはたとえかるた」が誕生したのです。その発祥の地は京都で、天明頃(1781~89)にはできていたと考えられています。これを「京いろは」と呼んでいます。いろは47文字に「京」を加えて48にしたのは、あるいは他の48枚のかるたに合わせたのかもしれません。もっとも「京いろは」の場合は、読み札と取り札(絵札)が必要ですから、合せて96枚が一揃いとなります。
「京いろは」は、収録されていることわざの中に類似したものが含まれており、また仮名遣いも「縁」(「ゑん」「えん」)や「鬼」(「をに」「おに」)など不統一なものでした。それが江戸へ伝わり、文化頃(1804~18)には「江戸いろは」が作られたようです。やや不完全な「京いろは」に対して、「江戸いろは」は内容も仮名遣いもすっきり統一されており、そのため全国的に普及していきました。現在では「いろはかるた」と言えば、「江戸いろは」の方を意味するまでになっています。俗に「犬棒かるた」と言われているのも、この「江戸いろは」のことです。
おそらく「江戸いろは」が作られてから、それと区別するために「上方いろは」という名称が登場したのでしょう。しかし単に上方というだけでは、京都・大阪の両方を含みます。大阪でも独自の「上方いろは」が大量に製造されましたから、「京いろは」は江戸・大阪の両方から圧倒されてしまいました。加えて「尾張いろは」も登場し、また時代によりメーカーにより多くのバージョンが登場しています。つまりいろはかるたの世界は混沌とした状況にあるのです。
しかしながら、「京いろは」こそは「いろはかるた」の元祖なのです。これをこのまま埋もれさせておくわけにはいきません。そこでこのたび大石天狗堂では、創立200周年記念事業の一環として、「京いろは」を復活させることにしました。
ただしこの「京いろは」は、古いかるたの複製ではなく、今回新たに製作したものです。そのため、時代的にやや新しいことわざも含まれています。もともと「京いろは」はバリエーションが多く、「い」だけでも「一寸さきやみの夜」以外に、「石の上にも三年」「いやいや三杯」などがあります。かるた製造元による相違・混同、時代に合わせたさしかえなどがあって、これが「京いろは」だという定番はないのです(古いかるたもほとんど残っていません)。また、差別的なものは別の諺に差し替えました。そういった事情ですから、昔おぼえていたものと違うということもあるかもしれませんが、どうかご了承下さい。また、あえて「京いろは」を復元するのですから、仮名遣いは歴史仮名遣いを重視しました。もっとも、いろはかるたには「かるた専用仮名遣い」とでも称すべき特殊なものがありますので、それはそのままにしています。
なお「江戸いろは」が「犬棒かるた」と呼ばれるのに対して、「京いろは」には特有の別称がありません。そこで犬と猫を対比させ、「猫に小判」から「猫判かるた」と称する人もいますが、いまだ通称となるまでには一般化していないようです。その他、上方(大阪)には「いやいやかるた」(上方かるた)というバージョンもあります。これは「い」が「いやいや三杯」で始まっていることからの命名です。
「京いろは」から「江戸いろは」が生まれ、さらに「上方いろは」が派生したことで、いろはかるたに新たなる広がりの可能性が見えてきました。つまり諺に拘泥しない新種のいろはかるたが誕生したのです。幕末頃には早くも「お化けいろはかるた」が登場しています。
明治以降は世相を反映したもの、野球・大相撲などのスポーツもの、「映画かるた」「俳優かるた」などのスターもの、子供向けの「乗物かるた」「動物かるた」「まんがかるた」など、実に豊富な広がりを見せています。一大ニュースをかるた化した「南極観測かるた」なども少なくありません。教育的な「童謡かるた」や「御伽かるた」などは、まだいろはかるたに近いものでしょう。テレビが普及してからは、「のらくろかるた」「さざえさんかるた」「鉄腕アトムかるた」「仮面ライダーかるた」など、人気番組が次々にかるたに仕立てられています。こういったものは俗にキャラクターかるたと称され、次々に新手のものが生産され続けています。それに対して「上毛かるた」「松本かるた」といった郷土かるたの類もたくさん作られました。これは各地の名所や偉人を取り入れた郷土自慢風のものですが、各市町村単位で制作可能なのでその数は膨大なものです。
ただし、かつてのいろは順があいうえお(五十音)順に変更になったこと、また新仮名遣いの普及によって「ゐ・ゑ・を」がなくなり、さらに「京」が削られたことで、枚数も44枚に減少しました。こういった変容を余儀なくされつつも、いろはかるたは今後も新種が作られ続けることでしょう。
(解説書より転載)
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